DOGEZAブログ~一日一土下座~

30代男性の日々の反省を記録していくブログです。

くすぐり猫とDOGEZAのワンダーランド(前篇):村上春樹風出張日記

けたたましいアラームの音が鳴り響く。まるで素人が奏でるジャズの不協和音のようだ。こんな不快な音を毎日聞いて目覚めなければいけない世界に、僕は生きている。ひどく頭がガンガンする。昨夜はお気に入りの「翔ぶが如く」を遅くまで読みふけり、気づけばこの調子だ。不快な朝の目覚めとは正反対に、まるで「森高千里」の歌声のように透き通った晴れ間が、揺れるカーテンの隙間から見え隠れしている。

まずはシャワーだ。熱いお湯を頭から浴びていると、頭の中の不協和音が少しずつ遠ざかっていく。歯を磨き、髭を剃り、短く刈り込んだばかりの髪の毛をセットする。雨上がりの雲の切れ間から光が差し込むように、徐々に目覚めてくる。村上春樹の小説の主人公であれば、この後タバコをふかしながらコーヒーを飲むはずだが、今日の僕にはそんな時間が無い。

「やれやれ、もう出発の時間か。小説の主人公のような生活なんて、そう都合よくは出来ないものさ」

自嘲気味に独り言を呟きながら、UNIQROのヒートテックの上に、糊がパリッと効いたブルーのシャツを着る。スーツはグレーのストライプが入ったお気に入りだ。ネイビーとベージュとホワイトのレジメンタルタイを締め終わる頃には、すっかり頭の靄は晴れている。ブラウンとベージュのツートンカラーのバッグを持ち、ドアを開けて外へ出る。近頃降り続いた雨の影は跡形もなく消え去った青空が僕を待ち受ける。エレベーターを降りて駅へ向かう。いつもの通い慣れた道、いつもと同じルート、まるでゲームのキャラがプログラミングされているかのようだ。駅に着くと真っ先にキヨスクへ向かう。ここで日経新聞を買うのが僕の日課だ。これもプログラミング通りだ。ホームへ上がると、いつも通りの馴染みの面子が顔を揃える。新学期を迎えた高校生、疲れた顔をしたサラリーマン、工場へ集団で出勤する中国人、変わり映えのしない見慣れた光景だ。電車に乗った後は、陣取り合戦のような、座席の奪い合い。足を入れ、肘を入れ、あの手この手で座席を取り合う。「たかだか45分の電車通勤、ましてや埼京線みたいな混雑なんてないのに、なんとかして快適に過ごすかばかりを皆考えている。全く嫌な気分になっちまう。」新聞を読みながら、もう一人の僕が心の中で毒づく。そんな時に限って目の前のサラリーマンが席を立つ。羨望の眼差しを浴びながら、素知らぬ顔で席に座る。快適な通勤の始まりだ。最後に読む似鳥社長の「私の履歴書」を読み終わる頃には、電車が駅へと到着する。今度はエスカレーターへ向かう競争の始まりだ。彼らは何と戦っているんだろう。ふと疑問に思う。しかし、「僕らには関係の無い話さ」、あっさりと疑問を追い払う。

事務所に入る前に近くのコンビニに寄る。挽きたてのコーヒーにはシロップを2つ、ミルクを1つがちょうど良い。コーヒーを抱えてデスクに着き、パソコンを立ち上げている間に、非常階段へ行き、煙草に火をつける。地獄から無数の手が伸びるかのように、灰皿代わりの缶コーヒーから吸い殻が飛び出ている。ふと気を抜いたら、缶コーヒーの吸い殻地獄に引き込まれそうな感覚になる。

「あら、あなた!髪を切ったの!?サッパリして良いじゃない」地獄から引き戻す、救いの手が差し延ばされる。振り返ると、そこには良く見た同僚の女の子の姿があった。

「髪を切ったのかだって!?君にはそう見えるのかい?」

「あなた、おかしいんじゃない!?どこからどう見たって、昨日より横も後ろも刈り上がってるわよ。」細長い煙草に火をつけながら彼女は続ける。「それに顔もパンパン、ひどい顔ね」

「パンパン・・・そうかもしれないな。昨日は遅くまで・・・、いや良いんだ。その通りだよ。君の見た通り、僕の髪の毛は昨日より刈り上がっていて、そして顔はパンパンで酷い顔なんだ」僕は少し笑いながら、彼女の言葉に同意した。「でもね、もしかしたら、僕は髪の毛を刈り上げていないかもしれないし、今君の目に映っている僕の姿と僕が鏡を見る姿は一緒ではないかもしれないと考えた事はある?」

「変なの。あなた体調でも悪いんじゃない?私が見てるあなたも、あなたが鏡で見ているあなたの姿も一緒に決まってるじゃない!今日は富山に行くのよね?そんなんで大丈夫なの?」

「見ての通りさ。僕は昨日よりも髪の毛が刈り上がっていて顔がパンパンなだけで、それ以外は何も問題ないよ」そんなやり取りをしながら、僕らはデスクに戻った。

 パソコンを確認すると1通のメールが来ていた。それは冒険の始まりを知らせるめーるだった。

「おはようございます。本日急遽別件でトラブルが起きた為、富山に行く事が出来ません。すみませんが本日は1人で対応をお願いします」僕はそのメールを何度か読み返した。

「やれやれ、朝から満員電車で快適な通勤をしたと思ったら、こんな事が待っているとは想像もしていなかったよ」頭の中で僕がつぶやく。早速電話を掛ける。

「おはようございます。メールを確認したんですけど?」

「すみませんね。今日どうしても行けなくなってしまったんですよ。色々と資料を送っておくので、なんとかお願いしますね」

「分かりました」そっと電話を切る。念のため補足をしておくが、今回のシステムに関して僕は関わり始めて2回目だ。いまだに触った事は無い。「僕が触った事がないシステムの説明を僕がするのか!?」

「君は少しテンションを下げているようだけど、これはチャンスなんじゃないのかい?君が得意な事をうまくやれる事は僕も知ってる。けれど、君は苦手な事からいつも逃げてきたじゃないか。」もう一人の僕が喋りかける。

「それは重々承知だよ。だけど、今回は僕が知っている情報は今の時点で何一つ無いんだよ。行く事は誰にでも出来る。だけど、どう考えても今の僕の知識で一人で行く事は間違っているよ!」僕は尚も反抗する。

「君の言っている事も分かるよ。だからこそチャンスなんじゃないか?まだ出発するまでに1時間ある。まずは出来る限りの情報を集めてからでも遅くないんじゃないかい?」珍しく諭すように言われ、僕は渋々その状況を受け入れる事にした。

やると決めたら、まずは情報収集だ。話を聞いて回って分かった事は、どうやらそのシステムに関しての知識は、1人の人に依存していて全く情報が無いという事だった。八方塞がりになった僕は決心した!

僕は、今僕が出来る最大限をやり切る事にした!晴れ渡った青空の下、僕は富山行きの新幹線の切符を握りしめ、颯爽と改札を通過した。続く・・・

 

あとがき

過去のブログにも書いた通り、僕が村上春樹の小説を初めて読んだのは、30過ぎてからと、比較的遅い出会いである。初めて読んだのは「海辺のカフカ」、想像を掻き立てる文章の表現と話の展開の面白さに一発でハマってしまった。そこから全ての著作を読み漁る日々が始まった。

村上春樹を忘れていた。。。 - DOGEZAブログ~一日一土下座~

2015年の2月3日に焼き肉屋に行った感想を村上春樹風に綴るというブログを読んだ。とても良く出来ていて、自分もやってみたいと思った。それから時が経つ事、2ヶ月半。ようやく形にする事が出来た。余りにも拙い文章過ぎて、本日の1土下座どころではないのだが、書いていてとても楽しい時間だった。予想以上に筆が進み、上・下巻に分かれるが、楽しんでいただければ幸いです。

分かってはおりますが、念には念を入れて、大作家のパクリをしてしまった事とタイトルがいまいちな事に、本日の1土下座!

まるで世界3大行進曲の「旧友」のように躍動感溢れる富山名物「白海老丼」!

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